理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容:単一架橋カーボンナノチューブにおける巨大円二色性

ある物質を鏡に映したときその元の像と鏡像を重ねることができないような場合にはその物質は右回り円偏光、左回り円偏光に対して異なる吸収率を示すことが知られています。このような現象は、円二色性と呼ばれ以前から有機物や生体分子の同定などに広く用いらてきました。また、近年メタマテリアルを用いて巨大な円二色性が実現されたことにより、負の屈折率をもつ物質のデザインやフォトニクス分野での円二色性の応用が期待されています。

本研究では、化学気相成長法を用いて合成した単一の架橋単層カーボンナチューブに対して円二色性測定を行い、巨大な円二色性を確認しました。下のグラフに右回り円偏光、左回り円偏光でナノチューブを励起した際の発光(フォトルミネッセンス)のスペクトルを示しています。このスペクトルからナノチューブは右円偏光と左円偏光での励起に対して発光強度が大きく異なることがわかります。発光強度の違いは励起光の吸収量に差があることを示しており、そこから間接的に円二色性を観測しているということが確認できます。円二色性の大きさを示す指標の一つとしてとして偏光度がありますが、今回行った実験では最大65%程度の偏光度が観測されました。この値は一般的な円二色性を発現する物質と比べて約1000倍程度大きいという驚くべき数字でした。

PL spectra with RCP and LCP excitation
左右円偏光励起での発光スペクトル

さらに観測された円二色性について、左下に示されている励起ビームとナノチューブの軸の間の入射角度依存性についても調査を行いました。右下のグラフに結果が示されており、一番下のパネルからナノチューブの偏光度は入射角に大きく依存し角度によっては符号も反転していることが読み取れます。この結果からナノチューブの角度を上手く調整し配置することができれば偏光度を制御することができると考えられます。

Schematic of experiment
実験の模式図
Angle dependence of polarization
偏光度の入射角度依存性

今回観測された円二色性は非常に巨大であり、偏光度に制御性があることから、ナノチューブを用いてナノスケールにおいて偏光をコントロールする素子の作成が可能となるかもしれません。もしナノスケールにおける偏光制御が実現されれば、光集積回路のさらなる微細化が進められると考えられます。

本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
A. Yokoyama, M. Yoshida, A. Ishii, Y. K. Kato Giant circular dichroism in individual carbon nanotubes induced by extrinsic chirality Phys. Rev. X 4, 011005 (2014). Link to publisher pdf