研究内容:単層カーボンナノチューブ電界効果トランジスター
他のナノ材料と比べたとき、カーボンナノチューブの特徴のひとつは、比較的容易に電極がつけられる、という点です。カーボンナノチューブの直径は分子並みの数ナノメートルでありながら、長さはミリメートル程にもなることがあります。量子ドットや単一分子に電極をつけるのには高度な技術が必要ですが、カーボンナノチューブの場合はミクロン程度の長さスケールで電極を付ければよいので、普通の半導体リソグラフィ技術がそのまま利用できます。つまり、単一の単層カーボンナノチューブを組み込んだデバイスの作製は、ほかのナノ材料を組み込んだデバイスほど難しくはなく、電子回路でなじみのあるマイクロメートルの世界から、ナノメートルの世界への架け橋となってくれるのです。
カーボンナノチューブを用いたデバイスの代表的なものとしては、電界効果トランジスターがあります。このデバイスは、ゲート電圧によってカーボンナノチューブの抵抗を変化させるという機能を持っています。ここではSi基板をゲートとし、SiO2を絶縁膜とした、バックゲート型電界効果トランジスターについて説明します。
デバイス加工プロセスは、酸化膜付のSi基板からスタートします。Siはドーピングされたものを用い、これがバックゲートとなります。酸化膜のSiO2はゲート絶縁膜になります。まず、カーボンナノチューブを生やしたい位置に触媒を配置します。レジストを塗布し、リソグラフィーにより触媒領域のレジストを取り除きます。この上から触媒を塗布して、リフトオフを行うことで触媒の配置が完了します。次に、このように触媒を乗せたチップを化学気相成長装置 に入れてカーボンナノチューブの合成を行います。最後に、電極を取り付けます。再度レジストの塗布とリソグラフィーを行い、電極の位置にレジスト窓を開けます。金属を蒸着し、リフトオフを行ってデバイスの完成です。
触媒の調整方法や量など合成条件を調節することにより、単一のカーボンナノチューブからなるトランジスターも作製することができます。単一のカーボンナノチューブなので、トランジスター特性を評価することにより、金属型か半導体型かの区別がつきます。金属型のカーボンナノチューブではどのゲート電圧でも電流が流れますが、半導体型では電流の流れない領域があります。