研究内容:非線形な励起子緩和過程を利用したカーボンナノチューブの超解像イメージング
これまでの研究で、カーボンナノチューブ中の励起子はとても長い拡散長を持つ ため、複数の励起子が存在すると、励起子-励起子消滅が非常に高い効率で起こる ことが分かっています。特に一次元系に特有な性質として、この消滅過程が励起子密度の3乗に比例して起こることも分かっています。このような強い非線形応答を利用することで、光の回折限界を超えた高分解能を持つイメージングを試みました。
私たちの研究室では共焦点顕微鏡という光学系を用いており、レーザー光は固定し、試料を走査することで像を得ています。ナノチューブの直径が約1 nmであるにも関わらず、プローブとして使っているレーザービームの空間的な広がりをそのまま反映し、500 nm程度の幅を持つぼやけた像が得られます。x軸方向のレーザー強度プロファイルはガウス関数(exp(-2x2/r2), r: 半径)で近似できるため、励起子生成レートgに対して発光強度がgαに比例する場合、ナノチューブ像の幅はおよそr/α1/2となります。なお、ナノチューブの場合、弱励起でα=1、強励起でα=1/3です。
以上は、発光強度が飽和するα < 1で線幅が増大する、つまり空間分解能が低下する例を紹介しました。これに対し、分解能を向上するためには逆にα > 1の非線形性を持つ成分を用います。密度の3乗に比例して起こる励起子-励起子消滅過程が最適です。(i)励起子-励起子消滅が起こらなかったと仮定した場合の発光強度(青点)から、(ii)励起子-励起子消滅によってやや飽和している発光強度(緑点)を差し引くことで、この過程の起こる効率を抽出することができます。さまざまな励起パワーの組み合わせを用いて、ナノチューブ軸と垂直な方向の強度の半値全幅を調べてみると、通常のイメージング手法(α=1)の限界(~500 nm)に対して、さらに21/2程度だけ細くなっていることがわかります。このような超解像イメージングが約300 W/㎝2と一般の蛍光色素の場合と比べて2桁以上低い強度で実現できますが、これはカーボンナノチューブの励起子がよく拡散する性質がカギとなっています。
モンテカルロ・シミュレーションによっても、やはり最大で21/2倍の分解能向上が可能であることを確かめましたが、冒頭で紹介した励起子-励起子消滅が励起子の密度の3乗に比例して起こるという性質だけでは説明ができません。実は、励起子が1個、2個と整数で数えられることに秘密があります。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Super-resolution fluorescence imaging of carbon nanotubes using a nonlinear excitonic process
Opt. Express
27, 17463 (2019).