理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容:フォトニック結晶微小共振器によるカーボンナノチューブの発光増強

フォトニック結晶とは屈折率が周期的に変化する光構造のことで、特にその周期が光の波長程度の場合は光を制御することができます。固体結晶中の電子エネルギーにバンドギャップが生じるように、フォトニック結晶中の光子に対してもフォトニックバンドギャップというものが存在し、バンドギャップ内の周波数を持つ光子はフォトニック結晶中を伝搬できないことになります。ここで、フォトニック結晶中に周期性を乱す欠陥が存在すると、その欠陥はフォトニックバンドギャップを持つフォトニック結晶で囲まれているため、バンドギャップ内の周波数の光子は外に逃げることができず、欠陥部分に閉じ込められます。つまり、フォトニック結晶中の欠陥は共振器の役割を果たすことになります。

このフォトニック結晶共振器は欠陥の構造を変えることによって共振波長を調整でき、小さなモード体積と高い閉じ込め効率(Q値)を持ちます。発光体を共振器内に置くと、その発光を増強できますが、フォトニック結晶共振器はナノスケールの発光体であるカーボンナノチューブと非常に相性が良いと言えます。そこで、本研究ではフォトニック結晶とカーボンナノチューブを光結合させることにより、カーボンナノチューブの発光増強を試みました。

photonic crystal fabrication process
フォトニック結晶作製プロセス

フォトニック結晶微小共振器はシリコン・オン・インシュレーター(SOI)から作製します。トップシリコン層に穴を開けることによって屈折率の周期性を作り、フォトニック結晶とします。埋め込み酸化膜はフォトニック結晶を宙に浮かすための犠牲層です。まず、電子線リソグラフィーによりフォトニック結晶を描画し、ドライエッチングでトップシリコン層に周期的な穴の配列を作ります。次に、ウェットエッチングで埋め込み酸化膜を取り除いて出来上がりです。

an SEM image of a photonic crystal cavity
フォトニック結晶共振器の電子顕微鏡像
PL of nanotubes of photonic crystal
フォトニック結晶上のカーボンナノチューブのフォトルミネッセンス

このようにして作ったフォトニック結晶共振器に、カーボンナノチューブ溶液を塗布して フォトルミネッセンス 測定を行いました。図のように、レーザーを共振器部分に照射したときは鋭いピークが観測され、発光が増強できたことが確認できました。共振器以外の部分では、ほとんど発光が検出できませんが、少なくとも50倍の増強が起きていると概算できます。

本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
R. Watahiki, T. Shimada, P. Zhao, S. Chiashi, S. Iwamoto, Y. Arakawa, S. Maruyama, Y. K. Kato Enhancement of carbon nanotube photoluminescence by photonic crystal nanocavities Appl. Phys. Lett. 101, 141124 (2012). Link to publisher pdf