理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容

当研究室では、ナノ物質の光物性やデバイスの動作にかかわる物理的理解を深めるための基礎研究と電子や光子の量子性を利用する光デバイスの開発を推進しています。微細加工技術を駆使して素子構造にナノ材料を組み込み、顕微分光に電子制御を組み合わせた実験的研究を展開しています。現在は主に単一のカーボンナノチューブや原子層物質を組み込んだデバイスの研究に取り組んでいます。

単層カーボンナノチューブ入門

単層カーボンナノチューブとは文字通り炭素一層からなる直径数ナノメートルのチューブです。炭素原子を6角形に並べて蜂の巣のようになっている膜をグラフェンと言いますが、それをくるりと巻いて筒にした構造を持っています。この材料の面白いところは、その巻き方によって金属になったり半導体になったりするところです。

カーボンナノチューブのように、直径は数ナノメートルなのに長さはミリメートルにもなって、電極を付けたりトランジスターに加工できる材料はなかなかありません。電子回路でなじみのあるマイクロメートルの世界から、ナノメートルの世界への架け橋となってくれるのです。

カーボンナノチューブの光物性

半導体型のカーボンナノチューブは、半導体の中でも直接半導体という光と相性のいい部類に属します。身の回りにあるものでは、LEDや光ダイオード、レーザーダイオードといった素子が、携帯電話のディスプレーや光学マウス、テレビやエアコンのリモコンとセンサーなど、光を使う電子機器の中で直接半導体は大活躍しています。

しかし、ナノチューブのような一次元材料では励起子の束縛エネルギーがとてつもなく大きかったり、巻き方によって性質が変わったりするなど、不思議なことがいろいろあります。そこで、単一のカーボンナノチューブの光物性を理解するための基礎研究を行っています。

カーボンナノチューブ・オプトエレクトロニクス

一本のナノチューブに電気を流して光を出したり検出したりすることができれば、波長の1000分の1の長さのスケールで光を操り、光子を一つ一つ発生させたり、また、その光子の量子力学的な情報を読み取ったりすることができるようになるかもしれません。

そのような未来の光量子技術を目標に、単一のカーボンナノチューブに電界を作用させるために電極を取り付け、オプトエレクトロニクス素子の研究に取り組んでいます。はたして、カーボンナノチューブはナノの世界に光を照らすことができるのでしょうか?

カーボンナノチューブ・フォトニクス

電子回路と光回路の融合を目指して研究が進められているシリコンフォトニクスの発展は目を見張るものがあります。高性能なシリコンフォトニクスとカーボンナノチューブを組み合わせれば、非古典光をチップ上で制御する量子集積光回路という夢の技術への期待も膨らみます。

カーボンナノチューブのように小さい物質からの発光を利用するためには工夫が必要です。量子電気力学効果を利用してナノ物質と光の相互作用を増強するため、カーボンナノチューブの発光を微小光共振器などフォトニクス素子に結合する研究に取り組んでいます。

異次元ヘテロ構造

異次元といっても時空を超えるというような話ではありません。一次元物質と二次元物質という異なる次元性の物質を接合させたヘテロ構造のことです。カイラリティを特定したカーボンナノチューブと層数を特定した原子層物質からなる原子精度ナノ構造の研究を推進しています。

ファンデルワールス融合フォトニクス

ファンデルワールス物質は原子層物質とも呼ばれ、相手の物質を選ばずに接合が可能だという特徴を持っています。原子数層の物質を組み込むことで機能性が発現するフォトニクス素子の研究を進めています。

量子欠陥エンジニアリング

カーボンナノチューブを有機分子修飾して得られる発光性欠陥により、室温で通信波長帯の単一光子発生が得られます。単一光子を手軽に利用できるデバイスが実現すれば、量子技術を日常的に利用するきっかけとなるかもしれません。