理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容:単層カーボンナノチューブのカイラリティと電子構造

単層カーボンナノチューブとは文字通り炭素一層からなる直径数ナノメートルのチューブです。炭素原子を6角形に並べて蜂の巣のようになっている膜をグラフェンと言いますが、それをくるりと巻いて筒にした構造を持っています。継ぎ目なく巻くためには元のグラフェン上の六角形と六角形を重ねなくてはいけません。この二つの六角形の中心同士を結んだベクトルのことをカイラルベクトルと言い、単層カーボンナノチューブの構造はこのベクトルによって一意に決まります。

Chiral vector
カイラルベクトルCはグラフェン格子の基底ベクトルa1とa2を用いてカイラルインデックス(n,m)で指定できる。

カイラルベクトルCはグラフェン格子の基底ベクトルa1とa2を用いて C = n a1 + m a2 と表すことができます。このとき、整数の組み合わせ(n,m)をカイラルインデックスまたは単にカイラリティと言います。つまり、単層カーボンナノチューブの構造を完全に決定するためにはカイラリティを指定すればよいことになります。

単層カーボンナノチューブが物質として極めて面白いのは、このカイラリティによって電子構造が金属的にも半導体的にもなり、バンドギャップエネルギーもカイラリティが異なると全く違う値をとるという点です。普通の半導体ではバンドギャップはその物質固有の値で、たとえばSiなら1.1 eV、GaAsなら1.4 eVと決まっています。単層カーボンナノチューブの場合、カイラリティが異なるとあたかも違う物質のようにふるまう、と考えても良いでしょう。

残念ながら、現在の合成技術では様々なカイラリティを持つものが同時に出来てしまうので、多数のカーボンナノチューブを測定すると単にその平均が観測されることになります。これに対し、カーボンナノチューブ一本だけを測定すれば、カイラリティによって異なる多様な物性が見えてきます。また、カーボンナノチューブ一本だけを組み込んだデバイスにより、そのようなカイラリティごとの個性を利用した新しい機能を実現できる可能性もあります。