研究内容:フォトニック結晶ナノビーム共振器による単一ナノチューブとの高効率光結合
フォトニック結晶ナノビーム共振器はフォトニック結晶微小共振器の一種で、屈折率を周期的に変化させた構造の中に欠陥を導入することによって、光を閉じ込めるものです。フォトニック結晶には光閉じ込めの次元によって1次元、2次元、3次元のものが存在しますが、1次元のナノビーム構造は共振器部分にカーボンナノチューブを架橋することが可能です。さらにフォトニック結晶共振器には二種類の共振器モードが存在し、それぞれ誘電体モードと空気モードと呼ばれています。前者は誘電体の中に高い電界強度を持ち、後者は空気中で高い電界強度を持ちます。空気モードの電界分布は下図のようになります。
カーボンナノチューブは基板に接触していると光らない性質を持つため、このように空気中で高い電界強度を持つ空気モードとカーボンナノチューブでは、効率のよい光結合が観測できる可能性があります。そこで本研究ではフォトニック結晶ナノビーム共振器と架橋カーボンナノチューブの光結合を試みました。
フォトニック結晶ナノビーム共振器は酸化膜のついたシリコン基板の上にさらに薄いシリコン層を積層したSOI(silicon-on-insulator)基板から作製します。まず、トップシリコン層にレジストを塗った上で電子線リソグラフィーを用い、レジスト上に周期的な穴を描画します。次に現像処理を行うことで電子線で描画した部分のみのレジストを取り除くことができます。その後、露出した部分をドライエッチングにより削りだし、フォトニック結晶構造を作ります。ウェットエッチングで埋め込み酸化膜を取り除き、空中に浮いたナノビーム構造が完成します。最後に作製したフォトニック結晶ナノビーム共振器の横にパターニングした触媒から化学気相成長法によってカーボンナノチューブを成長させ、共振機の上に架橋させます。
このように作製したデバイスに対して、フォトルミネッセンス測定を行いました。その結果、下図のようにカーボンナノチューブの発光波長において、非常に鋭いピークが観測されました。これはシリコン微小ディスク共振器の場合に比べ、もとのナノチューブのスペクトルが見えなくなるような非常に高効率なナノチューブと共振器の結合を示しています。解析の結果、ナノチューブから出た光のうち、85%も共振器に結合していることが分かりました。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Ultralow mode-volume photonic crystal nanobeam cavities for high-efficiency coupling to individual carbon nanotube emitters
Nature Commun.
5, 5580 (2014).