研究内容:カーボンナノチューブにおける発光のゲート制御
カーボンナノチューブでは、その一次元構造によりキャリア間のクーロン相互作用が非常に強く働き、発光エネルギーを決めるバンドギャップや励起子束縛エネルギーが環境の誘電率に大きく依存するということが知られています。例えば、カーボンナノチューブを界面活性剤などで包んで誘電率が大きくなると、発光エネルギーが小さくなるということが報告されています。
カーボンナノチューブに電界によってキャリアをドーピングした場合、遮蔽効果により誘電率が変化するため、同様な原理で発光エネルギーを制御できるということが期待されます。また、カーボンナノチューブの発光の電界依存性を調べることは、カーボンナノチューブを光デバイスへ応用するという点で重要です。
カーボンナノチューブの発光における電界依存性を調べるため、上図のような架橋型カーボンナノチューブ電界効果トランジスタ を作製しました。カーボンナノチューブを発光させるためには、カーボンナノチューブを基板から孤立させる必要があるため、図のような溝(トレンチ)が必要になります。 トレンチやソース、ドレインとなる電極を作成した後、化学気相成長法 によってカーボンナノチューブを成長し、デバイスを作製しました。ゲートとなるシリコン基板に電圧を印加することで、カーボンナノチューブのキャリア密度を制御できます。このデバイスにゲート電圧を印加しながら、カーボンナノチューブに対しフォトルミネッセンス 測定を行いました。
下図にフォトルミネッセンスのゲート電圧依存性を示します。ゲート電圧を大きくしていくと、フォトルミネッセンス強度が減衰するということがわかります。 さらに発光エネルギーを見ると、ゲート電圧によって高エネルギー側にシフトしていることがわかります。
上で述べたようにキャリアによる遮蔽効果で誘電率が大きくなるとすると、発光エネルギーは低エネルギー側にシフトすると予想されます。しかし、キャリア密度を変化させた場合にはバンドの一部が占有される効果も加わるため、外部環境の誘電率を変化させる場合とは単純に比較できないということが明らかになりました。また、ゲート電圧による発光強度の減衰もこれまで理論で予想されていたより大きく、低電圧で発光強度を変調可能なことが分かりました。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Gate-induced blueshift and quenching of photoluminescence in suspended single-walled carbon nanotubes
Phys. Rev. B
84, 121409(R) (2011).