理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容:架橋カーボンナノチューブにおける多体相互作用の有機分子吸着による制御

カーボンナノチューブへ有機分子を吸着させることで両者の機能を持った新しいナノマテリアルを作製することができ、分子サイズという極小デバイスへの応用が期待できます。有機分子がカーボンナノチューブに吸着すると、カーボンナノチューブ中の電荷密度の変調やクーロン相互作用の遮蔽が起きます。さらに、可視光を吸収する有機分子が吸着した場合は、そのヘテロ界面を利用した太陽電池などに利用できます。これまで有機分子による機能化は主に溶液中で行われてきましたが、このような環境では溶媒分子の影響もあり有機分子吸着そのものの効果を明確にすることが容易ではありませんでした。本研究では、空気中に架橋されたカーボンナノチューブに銅フタロシアニン(CuPc)を蒸着させることで、CuPc吸着がカーボンナノチューブの多体相互作用に与える影響を調べました。

蒸着時間を変えることで異なるCuPc蒸着量を有したカーボンナノチューブを作製し、その発光スペクトルと発光励起スペクトルを測定しました。蒸着量の増加につれてE11,E22遷移エネルギーが低エネルギーシフトすることが観測されました。加えて、CuPcの吸着により発光スペクトルの低エネルギー領域に新しいピークが観測され、これは電荷と励起子が結合したトリオン発光であることが分かりました。

PL PLE spectra
発光スペクトル(左)と発光励起スペクトル(右)

さらに、同じカイラリティのナノチューブに対して励起子とトリオンの発光エネルギーの関係を調べることで、励起子とトリオンの発光エネルギー差(ΔEX-T)と励起子発光エネルギー(E11)の間によい相関があることが明らかになりました。E11が低エネルギーシフトするとΔEX-Tも小さくなる傾向があり、このふるまいは励起子やトリオンのエネルギーを決める多体相互作用が同じように遮蔽されていることを示唆しています。環境の誘電定数に対して、それらの多体相互作用が同じべき乗則に従って遮蔽されていると考えることで定性的に実験結果を解釈できました。

Coreelation between <sub>X-T</sub>とE<sub>11</sub>
ΔEX-TとE11の相関

本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
S. Tanaka, K. Otsuka, K. Kimura, A. Ishii, H. Imada, Y. Kim, Y. K. Kato Organic molecular tuning of many-body interaction energies in air-suspended carbon nanotubes J. Phys. Chem. C 123, 5776 (2019). Link to publisher pdf