研究内容:架橋カーボンナノチューブにおけるゲート電圧誘起のトリオン
単層カーボンナノチューブは擬一次元構造によりキャリア間でのクーロン相互作用が非常に強く働くことが知られています。そのため、電子と正孔が強く束縛された励起子、あるいは励起子と電子(又は正孔)が束縛されたトリオン(荷電励起子)が室温でも安定して形成されます。励起子に関しては、励起子-励起子消滅・自発的解離・シュタルク効果といった興味深い現象が見られ、これらを利用することでナノチューブの受光素子・光源への応用が期待できます。一方で、トリオンは励起子と異なり電荷及びスピンの情報を有しているため、スピントロニクス・量子情報の分野で注目を集めています。
このトリオンを生成するためには、キャリアドープされたナノチューブを用意する必要があります。そこで本研究では、架橋カーボンナノチューブ電界効果トランジスターを作製し、ゲート電圧によりドーピング濃度を制御した状態でフォトルミネッセンス測定を行いました。
下図に架橋ナノチューブのフォトルミネッセンスのゲート電圧依存性を示します。ゲート電圧を印可すると、励起子由来の発光ピーク(E11・K)の強度が減衰しているのに対して、より低エネルギー側では新たなピーク(T)が発現していることがわかります。これはキャリアドーピングを施した際に生じたピークであることから、トリオン由来の発光であると考えられます。
実は本研究により初めて架橋ナノチューブ内のトリオンの観測に成功したのですが、過去に報告されてきたミセル中のナノチューブ内のトリオンと比較すると、E11-Tピーク間のエネルギー差がかなり大きいことがわかりました。このエネルギーが離れているほど、トリオンの束縛エネルギーが大きいことに相当しているため、架橋ナノチューブはより大きなトリオンの束縛エネルギーを有していると言えます。理由としては、架橋ナノチューブはミセル中のナノチューブと比較して周辺環境の誘電率が小さいため遮蔽効果を受けにくくなり、キャリア間のクーロン相互作用が増大しているからだと考えられます。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Gate-voltage induced trions in suspended carbon nanotubes
Phys. Rev. B
93, 041402(R) (2016).