研究内容:カーボンナノチューブにおける励起子の自然解離
カーボンナノチューブでは、電子と正孔が束縛された励起子が室温でも安定です。これは、一次元系では遮蔽効果が弱く、束縛エネルギーが数百meVにも達するからです。これだけ束縛エネルギーが大きいと、励起子を自由な電子と正孔に解離するためには、強力な電場が必要なはずですが、過去の研究では光伝導度や光起電力の測定が問題なく行われてきました。本研究では、実は励起子は自然と解離しているということを発見して、これまでの謎を解き明かしました。
まず、架橋型電界効果トランジスターを作製し、そこに化学気相成長法を用いてナノチューブを合成しました。そして下図のようにバイアス電圧を加えながらカイラリティの判明している単一ナノチューブの光電流とフォトルミネッセンスを同時に測定して軸方向電界の影響を調べました。
最初にナノチューブがしっかりと架橋しているのかを確認するためにイメージング測定を行います。下の三つの図は左から、反射率、フォトルミネッセンス、そして光電流の画像です。反射率像から溝の位置(中央の黒い部分)を特定することができます。また、ナノチューブは基板に直に接していない部分でしか発光しないという特徴があり、フォトルミネッセンスイメージからは架橋したナノチューブを探し出すことができます。これら二つのイメージを重ね合わせると発光しているナノチューブが溝の位置にくることがわかり、しっかり架橋していることが確認できます。最後の光電流イメージはフォトルミネッセンスイメージで確認したナノチューブの位置とほぼ同じ点で信号が得られていることから、検出された光電流とフォトルミネッセンスが同一のナノチューブに由来したものであることが分かります。
左下図に定励起光強度下での電界依存性を示します。まず、光電流の電界依存性に注目すると、1V以下でも光電流が観測されており、しかも0V近傍でも傾きが見られます。励起子を解離するための閾値がないことから、励起子が自然と解離しているということがわかりました。また、電界が強くなるにつれて発光強度が減少するのに対して、光電流は増加しています。これはナノチューブの吸収したキャリアが光電流として電極に逃げてしまうため、発光するためのキャリア数が減少してしまったことを意味しています。光電流のキャリア数は数えることができるため、このようなデータを基にして発光した励起子の個数と光励起されたキャリア数を求めることができます。さらに、ナノチューブの炭素原子の個数はカイラリティとチューブの長さから求まるため、炭素原子1個当たりの吸収断面積が得られます。今回の実験結果から吸収断面積は0.0024 nm2という値が得られました。これは右下図のようなイメージ図となります。赤丸の部分が励起光を吸収している部分に相当しています。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Spontaneous exciton dissociation in carbon nanotubes
Phys. Rev. Lett.
112, 117401 (2014).