研究内容:単層カーボンナノチューブにおける単一有機発光中心の決定論的形成
量子技術の発展において、オンデマンドで単一光子を放出する量子光源は極めて重要な役割を果たします。特に室温動作し、通信波長帯で機能する量子光源の実現は、量子通信、量子コンピューティング、量子センシングなどの実用的な量子技術応用に不可欠です。単層カーボンナノチューブは、その一次元構造と優れた光学特性により、通信波長帯での量子光源として大きな期待を集めています。従来の手法では量子欠陥の形成を精密に制御することが困難であり、特に欠陥の数や位置を正確に決定することが大きな課題となっていました。
本研究では、その場観察光化学反応を用いて単一有機発光中心を決定論的に作製する新しい手法を開発しました。リアルタイムで発光スペクトルを取得、個々の発光中心形成に対応する離散的な強度変化を観測し、この変化を検出した瞬間に 反応を停止することで単一発光中心の精密な作製を実現しました。この手法により発光中心の位置選択も可能であることを発光イメージングにより実証しました。光子相関測定により、形成された発光中心からの単一光子放出も確認し、この手法で作製された欠陥の量子的性質を立証しました。
この決定論単一分子修飾技術は、所望の発光エネルギーを持つ量子欠陥のオンデマンド利用につながり、カイラリティや分子前駆体の選択により、より広範囲なスペクトル範囲をカバーできる可能性を示しています。このレベルの精密性により、室温動作かつ通信波長帯で機能する、原子レベルで定義されたスケーラブルな量子フォトニック回路の開発への道筋が開かれました。この成果は、実用的な量子技術の実現に向けて大きな前進となることが期待されます。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Deterministic formation of single organic color centers in single-walled carbon nanotubes
Nano Lett.
25, 13103 (2025).