理化学研究所

加藤ナノ量子フォトニクス研究室

研究内容:異次元ヘテロ構造における界面励起子の量子発光

低次元半導体は従来の3次元結晶ではなく、厚さが原子一層程度の極めて薄い層で構成されており、微細化の限界を克服する可能性を秘めているからです。このような原子レベルの微細な構造では、室温でも量子効果による新たな物性の発現が期待できるため、1次元半導体である単層カーボンナノチューブや2次元半導体である遷移金属ダイカルコゲナイドなどの低次元半導体の研究は、微細化限界の克服のみならず次世代の量子技術への応用可能性を模索する重要な分野となっています。

CNT/WSe<sub>2</sub>のヘテロ構造における界面励起子の模式図(左)。転写前(中)、後(右)の発光スペクトル
CNT/WSe2のヘテロ構造における界面励起子の模式図(左)。転写前(中)、後(右)の発光スペクトル

本研究では、カーボンナノチューブ(CNT)/タングステンジセレン化物(WSe2)のヘテロ構造における界面励起子を発見しました。この異次元ヘテロ構造は、我々の研究室で開発されたアントラセン転送技術を利用して作製されました。WSe2の転写前後での発光スペクトルを比較しました。転写後はE11励起子より低エネルギーの0.924と0.821 eVに新たなピークが出現しました。これらのピークは、セレン化タングステン内の正孔とカーボンナノチューブ内の電子から成る界面励起子が発光したものである可能性があります。その場合、電子と正孔が分かれやすいタイプⅡヘテロ構造でのみ、観測されるはずです。

種々のヘテロ構造の分光特性
種々のヘテロ構造の分光特性

そこで、種々のカイラリティのナノチューブとのヘテロ構造を作製して調べたところ、これらのピークはバンドギャップエネルギーの大きいカーボンナノチューブを用いたヘテロ構造でのみ観測され、界面励起子による発光であるという解釈と整合性のある結果が得られました。

界面励起子(左)とE<sub>11</sub>励起子(右)の二光子相関測定結果
界面励起子(左)とE11励起子(右)の二光子相関測定結果

界面励起子の局在状態と量子性を調べるために、二光子相関測定を実施しました。その結果、界面励起子からの発光は、二次相関関数が時間差ゼロで小さい値を取るアンチバンチングを示し、光子を一粒ずつ発生させる量子光源としての特性を持つことが明らかになりました。一方、局在していないE11励起子からはアンチバンチングは観察されず、量子性の発現は局在している界面励起子の性質と関連していると考えられます。

本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
N. Fang, Y. R. Chang, S. Fujii, D. Yamashita, M. Maruyama, Y. Gao, C. F. Fong, D. Kozawa, K. Otsuka, K. Nagashio, S. Okada, Y. K. Kato Room-temperature quantum emission from interface excitons in mixed-dimensional heterostructures Nature Commun. 15, 2871 (2024). Link to publisher pdf

プレスリリース: 「異次元ナノ半導体界面に潜む量子光源の発見」