研究内容:原子層物質を用いた自己整合型ハイブリッドナノ共振器
二次元ファンデルワールス層状物質は、異種材料融合フォトニクスにおいてますます重要視されてきています。特に、二次元物質を微小光共振器と集積することで光と物質の相互作用が強化され、より高度な制御や機能の実現が期待されます。従来のハイブリッドデバイスでは、前もって作製されたナノ共振器に単層または少数層の二次元物質原子層膜を転写する手法が用いられてきました。これらの原子層膜は非常に薄いにもかかわらず、二次元物質の転写によって共振器の誘電環境が変化させてしまいます。興味深いことに、このような二次元物質の誘電環境への影響は、通常軽視されるか小さな摂動とみなされ、微小光共振器の設計をわずかに調整するだけで対処できると考えられており、ハイブリッドナノ光デバイスにおける誘電環境を二次元物質でエンジニアリングする可能性はまだ十分に探求されていません。 二次元物質による誘電環境の変化を摂動として対処するのではなく、これを利用して光物質相互作用を強化する新たな手法が実現出来る可能性があります。
本研究では、フォトニック結晶(PhC)導波路の加工後に、適切なサイズの二次元物質で部分的に被覆することで、高Q値のナノ共振器を自己整合的に形成する新しい手法を実証しました。二次元物質の存在により局所的な屈折率が増加し、導波モードの周波数は低下します。二次元物質がある領域とない領域の電磁場の周波数の不一致によりナノ共振器が形成されます。この原理を用いて、シリコンPhC導波路上にhBN、WSe2、MoTe2を用いたハイブリッドナノ共振器デバイスを形成し、Q値4.0×105という高い値を得ることに成功しました。特筆すべきは、単層でも局所的な屈折率の変調が十分であり、高Q値のナノ共振器を形成できる点です。さらに、自己整合MoTe2共振器デバイスにおいて、共振器によるフォトルミネッセンス増強を観測し、パーセル増強係数が約15であることも確認しました。
以上のように、二次元物質を利用した誘電環境エンジニアリングにより、機能性ハイブリッドデバイスを構築の一例を示しました。このアプローチは、多様な材料に適用可能であり、光と物質の相互作用をより高度に操作するための材料工学や光学技術の発展、二次元物質、ナノサイエンス、ハイブリッドデバイス応用、集積フォトニクスなど多くの分野に大きな影響を与えると考えられます。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Self-Aligned Hybrid Nanocavities Using Atomically Thin Materials
ACS Photonics
11, 2247 (2024).