研究内容:対称性の破れたH1フォトニック結晶共振器によるカイラルモード
2次元フォトニック結晶は、薄い板状の材料に空気穴を格子状に配置することで屈折率を周期的に変化させたものです。このフォトニック結晶から一つの空気穴が取り除かれることでH1ナノ共振器が形成されて光電磁場が閉じ込められます。従来の非キラルH1フォトニック結晶共振器は、二つの縮退した直交直線偏光双極子モードを有するため、π/2位相差で駆動すると円偏光を生じさせることができます。ただし、作製上の誤差により縮退が解けてしまい、円偏光では動作しないことが知られています。
フォトニック結晶共振器は「開境界システム」を形成しており、共振器が損失または利得を介して周囲の環境とエネルギーを交換できます。このようなシステムは、非エルミート系と呼ばれます。非エルミート系は適切な条件を満たすと、固有周波数と固有状態がともに同一になる特異な縮退を起こし、その条件を満たす点は例外点とよばれます。例外点は広い意味のカイラリティ―、例えば円偏光、カイラル伝搬やカイラル幾何学的位相などに関係しています。本研究では、フォトニック結晶H1ナノ共振器で非エルミート効果を用いて、円偏光の固有共振モードを実現できることを示しました。
ここでは、共振器の近くにある二つの空気穴を修正して、二つのモード間で非エルミート後方散乱を発生させます。 適切な空気穴の修正によって共振器モードが例外点に近づくと、モードは高度に縮退し、カイラル性を持つようになります。 この現象は有限差分時間領域(FDTD)シミュレーションによって確認され、支配的な偏光成分が円偏光であることが明らかとなりました。円偏光の向きは、修正する空気穴を選択することで切り替えることができます。
本研究の詳細については、こちらの論文を参照してください。
Chiral modes near exceptional points in symmetry broken H1 photonic crystal cavities
Phys. Rev. Research
3, 043096 (2021).